陥没乳頭は乳がんになりやすい?医師が解説する真実とリスク対策
最終更新日2025.06.19(公開日:2025.06.19)
監修者:院長 田牧 聡志(たまき さとし)

陥没乳頭を持つ方の中には、「乳がんのリスクが高いのではないか」と不安を感じている方も少なくありません。
本記事では、陥没乳頭と乳がんの関連性について医学的な観点から詳しく解説します。
陥没乳頭の特徴やセルフケア方法、乳がん早期発見のためのポイントまで、気になる疑問に専門医の視点からお答えします。
自分の体への不安を解消し、適切な健康管理ができるようになりましょう。
陥没乳頭とは?基本的な知識と原因
陥没乳頭とは、一般的に乳頭(乳首)が内側に引っ込んでいる状態を指しますが、乳頭自体が小さく委縮(形が無い)していたり、平坦な場合も含めます。一般的には両側性(両方の乳頭)に見られることが多いですが、片側のみに生じるケースもあります。日本人女性の約10%が何らかの形で陥没乳頭を持っているとされており、決して珍しい体質ではありません。
陥没乳頭の主な原因は以下の通りです:
先天的要因
生まれつき乳頭下の結合組織や乳管が短いことが原因で発生
後天的要因
授乳、外傷、乳腺炎、乳がんなどによる瘢痕(はんこん)形成
一時的な陥没
ホルモンバランスの変化や気温による一時的な陥没
多くの場合、陥没乳頭は健康上の問題を引き起こすことはなく、通常の体のバリエーションの一つとして捉えられています。妊娠・出産を経験することで改善するケースもあります。
しかし、「陥没乳頭は乳がんになりやすいのでは?」という不安を持つ方も多いようです。次のセクションでは、この疑問に対して医学的な観点から詳しく解説していきます。
陥没乳頭と乳がんの関連性は本当にあるのか?
結論から先に申し上げると、陥没乳頭自体が直接乳がんのリスクを高めるという明確な医学的証拠はありません。これは多くの医学研究で確認されている事実です。
しかし、ここで重要な区別をする必要があります:
1.生まれつきの陥没乳頭
乳がんリスクとの直接的な関連性はない
2.新たに生じた陥没乳頭
乳がんを含む何らかの病態のサインである可能性がある
特に注意すべきは、以前は正常だった乳頭が突然陥没した場合です。これは乳がんを含む様々な疾患のサインである可能性があります。乳がんが乳管内で発生・進行すると、癌細胞の増殖による引き込みで乳頭が陥没することがあるためです。
しかし繰り返しになりますが、生まれつきの陥没乳頭や長期間変化のない陥没乳頭は、それ自体が乳がんのリスク因子ではありません。
陥没乳頭に関する誤解を解く
「陥没乳頭は乳がんになりやすい」という誤解が広まっている理由の一つは、乳がんの症状として「新たな乳頭陥没」が挙げられることがあるからです。しかし、これは因果関係を逆に解釈した誤解です。
正しい理解は以下の通りです:
乳がん → 乳頭陥没(症状として)
陥没乳頭 → 乳がん(直接的な因果関係はない)
したがって、生まれつきの陥没乳頭を持つ方が過度に心配する必要はありません。ただし、乳がんの早期発見のためには、陥没乳頭があることでセルフチェックが難しくなる場合があるため、より注意深い健康管理が望ましいでしょう。
乳がんのリスク要因とは?医学的に証明されている事実
乳がんの発症リスクを高める要因について、医学的に証明されているものを整理しておきましょう。陥没乳頭が直接的なリスク要因ではないことを理解した上で、実際にどのような要素が乳がんと関連しているのかを知ることは重要です。
乳がんの主なリスク要因
1.年齢
加齢とともにリスクは上昇し、50歳以上で特に発症率が高まる
2.家族歴
特に一親等(母、姉妹、娘)に乳がん患者がいる場合
3.遺伝的要因
BRCA1、BRCA2などの遺伝子変異
4.ホルモン関連要因
- 初経年齢が早い(12歳未満)
- 閉経年齢が遅い(55歳以上)
- 出産経験がない、または初産年齢が30歳以上
- 長期のホルモン補充療法
5.生活習慣
- 肥満(特に閉経後)
- 運動不足
- アルコールの過剰摂取
- 喫煙
6.放射線曝露
若年期に胸部への放射線治療歴がある場合
これらのリスク要因は、個人の乳がん発症リスクを評価する際の指標となります。しかし、リスク要因を複数持っていても必ずしも乳がんを発症するわけではなく、リスク要因がなくても乳がんになる可能性はあります。
重要なのは、自分のリスク要因を知り、適切な頻度で検診を受けることです。陥没乳頭自体はこのリスト内に含まれないことに注目してください。
陥没乳頭がある方が注意すべきポイントとは?
陥没乳頭自体は乳がんのリスク要因ではありませんが、いくつか注意すべきポイントがあります。
1.セルフチェックの難しさ
陥没乳頭の方は、乳房の変化に気づきにくい場合があります。
特に:
- 乳頭からの分泌物の確認が難しい
- 乳頭周囲のしこりや硬結に気づきにくい
- 乳頭の色や形の変化を判断しづらい
2.衛生管理の重要性
陥没乳頭は皮膚が重なる構造となるため、汗や皮脂が溜まりやすく、細菌が繁殖しやすい環境になりがちです。
適切な清潔管理を怠ると:
- 乳頭部の炎症
- 乳腺炎
- かぶれやかゆみ などのトラブルが生じる可能性があります。
3.変化の見落としに注意
以下のような変化が生じた場合は特に注意が必要です:
- 長年変化のなかった陥没乳頭の形状が変わった
- 片側だけが突然陥没した
- 片側だけ陥没の程度が強くなった
- 陥没部分から血性の分泌物が出る
これらの変化は、乳がんを含む何らかの疾患のサインである可能性があります。気になる変化があれば、迷わず医療機関を受診しましょう。
陥没乳頭の方におすすめのセルフチェック方法
陥没乳頭があっても、効果的なセルフチェックは可能です。以下の方法を月に1回程度、定期的に行うことをおすすめします。
基本的なセルフチェック手順
1.視診(見て確認)
- 鏡の前に立ち、両腕を下げた状態で乳房の形、大きさ、左右差を確認
- 両腕を上げた状態でも同様に確認
- 乳頭の陥没度合いに変化がないか確認
2.触診(触って確認)
- 仰向けに寝て、片方の肩の下に薄い枕やタオルを入れる
- 指の腹を使って、乳房全体を円を描くように触る
- 乳房の外側から乳頭に向かって、放射状に触る
- わきの下まで含めてしこりがないか確認
陥没乳頭に特化したチェックポイント
お風呂で温めた後に行う
温かいとき(入浴後など)は乳頭が少し出てくることがあるため、チェックしやすい
乳頭を軽く引っ張る
可能であれば、乳頭を優しく引っ張り出して状態を確認
乳輪を圧迫する
乳輪の周囲を優しく押し、分泌物が出ないか確認
何か気になる変化や不自然なしこりを感じた場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。
乳がん検診はどうすればいい?陥没乳頭がある方への具体的アドバイス
陥没乳頭がある方でも、乳がん検診は通常通り受けることができます。むしろ、セルフチェックの難しさを補うためにも、定期的な検診がより重要といえるでしょう。
推奨される検診頻度
40歳未満
医師と相談の上、必要に応じて(特に乳がんの家族歴がある場合)
40歳以上
2年に1回のマンモグラフィ検査が推奨
30〜40代
視触診に加え、超音波検査(エコー)も有効
検診時の注意点
1.事前に陥没乳頭について伝える
検査前に医師や技師に陥没乳頭があることを伝えておくと、より丁寧な検査が期待できます。
2.マンモグラフィの限界を理解する
陥没乳頭がある場合、マンモグラフィ検査だけでは死角が生じる可能性があります。可能であれば超音波検査と組み合わせることで検査精度が向上します。
3.定期的な受診の継続
一度異常なしと診断されても、定期的な検診を継続することが重要です。乳がんは進行が比較的遅いがんですが、早期発見・早期治療が鍵となります。
検診の種類と特徴
検査方法 | 特徴 | 陥没乳頭がある場合の有効性 |
---|---|---|
マンモグラフィ | レントゲンで乳房内部を撮影。石灰化などの早期変化を発見できる | 基本検査として有効だが、乳頭周辺は見えにくい場合も |
超音波(エコー) | 高周波の音波で乳房内部を観察。若年層の密度の高い乳房でも有効 | 乳頭周辺や表在性の病変の発見に特に有効 |
MRI | 特に高リスク群に対して実施。詳細な画像が得られる | 精密検査として非常に有効 |
視触診 | 医師による目視と触診での検査 | 経験豊富な医師による診察が望ましい |
陥没乳頭がある方は、マンモグラフィと超音波検査を組み合わせた検診が特に効果的です。
専門医に相談すべきタイミングとは?見逃せない兆候
陥没乳頭がある方が医療機関を受診すべきタイミングについて解説します。以下のような変化や症状を感じたら、できるだけ早く乳腺専門医に相談しましょう。
即座に受診すべき兆候
1.以前はなかった乳頭の陥没
今まで陥没していなかった乳頭が突然陥没した場合は、乳がんを含む疾患のサインの可能性があります。
2.片側のみの変化
両側の乳頭の状態に明らかな差が生じた場合(片側だけ陥没が強くなったなど)。
3.血性の分泌物
乳頭から血液が混じった分泌物が出る場合は、悪性疾患の可能性があります。
4.硬いしこり
特に動かないしこりを感じた場合は要注意です。
経過観察しながら受診を検討すべき兆候
1.乳房の痛み
月経周期と無関係な持続的な痛みがある場合。
2.乳房皮膚の変化
くぼみ、ひきつれ、発赤、ただれなどの皮膚変化。
3.乳頭からの無色・白色の分泌物
少量の無色または白色の分泌物は生理的なものの場合もありますが、持続する場合は受診を。
4.乳房のサイズや形の変化
急激な左右差の出現や形状の変化。
適切な医療機関の選び方
乳腺外科
乳房疾患を専門とする医師が在籍
乳腺専門外来
総合病院や大学病院に設置されていることが多い
検診施設認定
マンモグラフィ検診精度管理中央委員会の認定施設であれば信頼性が高い
心配な症状があれば、自己判断せずに専門医に相談することが最も安心です。「様子を見よう」と判断を先延ばしにせず、少しでも気になる変化があれば受診しましょう。
まとめ:陥没乳頭と乳がんの正しい知識で不安を解消しよう
本記事では、陥没乳頭と乳がんの関連性について詳しく解説してきました。最後に重要なポイントをまとめます。
重要ポイント
1.陥没乳頭自体は乳がんのリスク要因ではない
生まれつきの陥没乳頭や長期間変化のない陥没乳頭は、乳がん発症リスクを高めるものではありません。
2.新たに生じた乳頭陥没には注意が必要
以前は正常だった乳頭が突然陥没した場合は、乳がんを含む疾患のサインである可能性があります。
3.効果的なセルフチェック方法を習慣化する
陥没乳頭があっても、適切な方法でのセルフチェックは可能です。月1回程度の定期的なチェックを心がけましょう。
4.定期的な乳がん検診が重要
40歳以上の方は2年に1回のマンモグラフィ検査が推奨されています。可能であれば超音波検査も併せて受けることで、より高い精度の検診が期待できます。
5.気になる変化があれば迷わず受診を
「様子を見よう」と判断を先延ばしにせず、少しでも気になる変化があれば専門医に相談しましょう。
陥没乳頭があることで過度に不安を感じる必要はありません。正しい知識を持ち、適切な健康管理を行うことが大切です。定期的なセルフチェックと検診を習慣化して、乳がんの早期発見・早期治療につなげましょう。
不安や疑問がある場合は、ぜひ乳腺専門医に相談してください。医師との対話を通じて、あなたに合った健康管理方法を見つけることができるでしょう。