• 陥没乳頭

陥没乳頭でも授乳はできる!成功するための実践的なコツと対処法

最終更新日2025.08.14(公開日:2025.08.14)
監修者:院長 田牧 聡志(たまき さとし)

赤ちゃんを抱く女性の写真

陥没乳頭があっても、適切な知識とテクニックがあれば母乳育児は十分可能です。多くのお母さんが抱える不安を解消し、赤ちゃんとの大切な時間を豊かにするための具体的な方法をご紹介します。

陥没乳頭による授乳の困難は決して珍しいことではありません。実際に、女性の約10%が何らかの程度の陥没乳頭を持っているとされています。この記事では、陥没乳頭の基礎知識から実践的な授乳のコツ、専門家のサポートを受ける方法まで、包括的にお伝えします。適切な準備と技術により、陥没乳頭でも赤ちゃんに十分な母乳を与えることができるのです。

陥没乳頭とは?基礎知識を理解する

陥没乳頭とは、乳頭が乳房の中に埋もれている状態を指します。
程度によって軽度から重度まで分類され、片方だけの場合もあれば両方の場合もあります。

陥没乳頭の種類と特徴

軽度の陥没乳頭
  • 刺激を与えると乳頭が出てくる
  • 妊娠や授乳期に自然に改善することが多い
  • 授乳への影響は比較的少ない
重度の陥没乳頭
  • 刺激を与えても乳頭が出にくい
  • 乳管の発達に影響を与える可能性
  • 授乳時により多くのサポートが必要

陥没乳頭は先天的なものがほとんどですが、乳腺の発達とともに改善されることも珍しくありません。特に妊娠中はホルモンの影響で乳腺が発達し、陥没していた乳頭が徐々に出てくるケースも多く見られます。

重要なのは、陥没乳頭があっても母乳育児を諦める必要はないということです。適切な知識と準備があれば、多くのお母さんが成功している実例があります。

陥没乳頭での授乳が困難な理由

陥没乳頭で授乳が困難になる主な理由を理解することで、効果的な対策を立てることができます。

赤ちゃんの吸着の問題

赤ちゃんは本能的に乳頭を探して吸い付こうとしますが、陥没乳頭の場合は吸着するための突起が不十分になります。
これにより、以下のような問題が生じます:

  • 赤ちゃんが乳頭を見つけにくい
  • 適切な深さまで吸い付けない
  • 効率的な母乳の吸引ができない

母乳の流出への影響

陥没乳頭では乳管の開口部が正常に機能しない場合があり、母乳の流れが阻害される可能性があります。
これにより母乳の分泌量自体は十分でも、赤ちゃんが必要な量を摂取できないことがあります。

お母さんの心理的負担

授乳がうまくいかないことで、お母さん自身が不安やストレスを感じることも少なくありません。このストレスが母乳の分泌に悪影響を与える悪循環を生み出すこともあります。

しかし、これらの問題は適切な準備と技術によって多くの場合改善可能です。次のセクションでは、具体的な準備方法をご紹介します。

授乳前の準備:陥没乳頭を改善するコツ

陥没乳頭の状態を改善し、授乳を成功させるための準備は妊娠中の流産のリスクが低くなる安定期(妊娠16週以降)から始めることができます。

妊娠中からできる乳頭ケア

ホフマン手技
  1. 乳頭の両側を親指と人差し指で挟む
  2. 水平方向に軽く引っ張る
  3. 次に垂直方向にも同様に引っ張る
  4. 1日2-3回、各5-10回程度行う

この手技により、乳頭周辺の組織が柔らかくなり、陥没の改善が期待できます。ただし、妊娠32週以降は子宮収縮を促す可能性があるため、医師と相談の上で行うことが重要です。

乳頭吸引器の使用

市販の乳頭吸引器を使用することで、陥没した乳頭を徐々に引き出すことができます。
使用方法:

  • 清潔な状態で1日15-20分程度使用
  • 痛みを感じない程度の吸引力で調整
  • 継続的な使用により効果が現れる

授乳直前の準備

温湿布による血行促進

授乳前に温かいタオルで乳房全体を温めることで、血行が促進され乳頭が出やすくなります。3-5分程度の温湿布を習慣にしましょう。

乳頭マッサージ
  • 清潔な手で乳頭周辺を円を描くようにマッサージ
  • 軽く乳頭をつまんで刺激を与える
  • 母乳が少し出るまで続ける

これらの準備により、陥没乳頭でも授乳がしやすい状態を作ることができます。

効果的な授乳ポジションと抱っこの仕方

陥没乳頭での授乳では、通常よりも慎重にポジションを選択し、赤ちゃんと乳房の位置関係を調整することが重要です。

推奨される授乳ポジション

クロスクレードル抱き
  • 授乳する側と反対の腕で赤ちゃんの頭を支える
  • 赤ちゃんの体を乳房に密着させる
  • 乳頭の位置を細かく調整しやすい
フットボール抱き
  • 赤ちゃんを脇に抱える姿勢
  • 乳房への赤ちゃんのアプローチ角度を調整しやすい
  • 帝王切開後のお母さんにも適している
添い乳(横になっての授乳)
  • お母さんと赤ちゃんが横になった状態
  • リラックスして授乳できる
  • 夜間の授乳に特に有効

ポジション調整のコツ

赤ちゃんの口が乳頭の真正面に来るよう位置を調整します。陥没乳頭の場合は、乳房を軽く圧迫して乳頭を突出させながら、赤ちゃんの口に近づけることが効果的です。

授乳クッションを活用することで、お母さんの負担を軽減しながら最適なポジションを維持できます。赤ちゃんの重みを支え、授乳中の姿勢を安定させる効果があります。

授乳を成功させる実践的なテクニック

陥没乳頭での授乳を成功させるための具体的なテクニックをご紹介します。

Cホールド(乳房の支え方)

乳房を適切に支えることで、陥没した乳頭でも赤ちゃんが吸着しやすくなります:

  1. 親指を乳頭の上部に、他の指を下部に配置
  2. 乳房をCの字型に支える
  3. 指が乳輪にかからないよう注意
  4. 軽く圧迫して乳頭を突出させる

サンドイッチテクニック

乳房を薄く圧迫して赤ちゃんの口に入りやすくする方法:

  • 乳房を上下から挟むように圧迫
  • 赤ちゃんの口の形に合わせて調整
  • 吸着後はゆっくりと手を離す

段階的な吸着アプローチ

ステップ1:乳頭の準備
  • マッサージで乳頭を刺激
  • 少量の母乳を絞り出して乳頭を湿らせる
ステップ2:赤ちゃんの準備
  • 赤ちゃんが空腹で機嫌の良い時を選ぶ
  • 口を大きく開けるまで待つ
ステップ3:吸着の誘導
  • 乳頭で赤ちゃんの上唇を刺激
  • 大きく口を開けた瞬間に乳房に引き寄せる

この段階的なアプローチにより、陥没乳頭でも確実な吸着を実現できます。

授乳補助器具の活用方法

陥没乳頭での授乳をサポートする様々な器具があります。適切に活用することで、授乳の成功率を大幅に向上させることができます。

乳頭保護器(ニップルシールド)

使用方法と効果
  • シリコン製の薄い乳頭型カバー
  • 陥没した乳頭の代わりとして機能
  • 赤ちゃんが吸い付きやすい形状を提供
適切な選び方
  • 乳頭のサイズに合ったものを選択
  • 材質は医療用シリコンを推奨
  • 授乳指導を受けた上で使用開始

搾乳器の活用

手動搾乳器
  • 陥没乳頭を引き出す効果
  • 母乳の分泌刺激
  • 乳管の開通促進
電動搾乳器
  • より効率的な母乳摂取
  • 定期的な使用で乳頭の改善
  • 職場復帰時の継続授乳にも有効

よくある悩みと解決策

陥没乳頭での授乳中によく遭遇する問題と、その解決策をご紹介します。

赤ちゃんが嫌がって泣いてしまう

原因と対策
  • 吸い付きにくさによる欲求不満
  • 授乳前の準備時間を十分に取る
  • 赤ちゃんがリラックスしている時を選ぶ
  • 皮膚と皮膚の接触を増やす

授乳に時間がかかりすぎる

効率化のコツ
  • 授乳環境を整える(静かで快適な場所)
  • 両胸での授乳を計画的に行う
  • 搾乳器との併用で時間短縮

乳頭に痛みがある

痛みの軽減方法
  • 正しい吸着ができているか確認
  • 授乳後の乳頭ケア
  • 必要に応じて乳頭保護器の使用

母乳の分泌量が不安

分泌促進の方法
  • 頻繁な授乳刺激
  • 十分な水分と栄養摂取
  • ストレス管理とリラクゼーション
  • 搾乳による追加刺激

これらの問題は多くのお母さんが経験するものであり、適切な対処により改善可能です。一人で悩まず、専門家のサポートを受けることも重要です。

専門家のサポートを受けるタイミング

陥没乳頭での授乳において、専門家のサポートが必要となる場面とタイミングをご説明します。

助産師・授乳指導士への相談

相談すべき状況
  • 授乳開始から1週間経っても改善が見られない
  • 赤ちゃんの体重増加が不十分
  • 授乳時の痛みが継続している
  • お母さんの精神的負担が大きい
サポート内容
  • 個別の授乳指導
  • 適切な器具の選択と使用方法
  • 母乳分泌の評価と改善提案
  • 心理的サポートとカウンセリング

医療機関での治療

受診を検討する症状
  • 重度の陥没乳頭で改善が困難
  • 乳腺炎や乳管閉塞の症状
  • 乳頭の損傷や感染の疑い
治療選択肢
  • 薬物療法(必要に応じて)
  • 物理療法(レーザー治療など)
  • 外科的治療(重度の場合のみ)

継続的なフォローアップ

専門家との継続的な関係を築くことで、授乳期間を通じて適切なサポートを受けることができます。定期的な評価により、方法の調整や新しいアプローチの導入も可能になります。

多くの場合、専門家のサポートを受けることで陥没乳頭での授乳は大幅に改善されます。一人で抱え込まず、積極的に専門家の力を借りることをお勧めします。

まとめ:陥没乳頭でも安心して授乳を

陥没乳頭があっても、適切な知識と準備、そして必要に応じた専門家のサポートがあれば、母乳育児は十分に可能です。この記事でご紹介したコツと方法を実践することで、多くのお母さんが授乳を成功させています。

重要なポイントの整理

妊娠中からの準備
  • ホフマン手技による乳頭ケア
  • 乳頭吸引器の適切な使用
  • 専門家との早期相談
授乳時の実践テクニック
  • 効果的なポジション選択
  • Cホールドとサンドイッチテクニック
  • 段階的な吸着アプローチ
サポート器具の活用
  • 乳頭保護器の適切な使用
  • 搾乳器による補助
  • 必要に応じた補完栄養システム

次のステップへ

陥没乳頭での授乳に不安を感じている方は、まず産婦人科や助産院で相談を受けることをお勧めします。個々の状況に応じた最適なアプローチを見つけることで、赤ちゃんとの貴重な授乳時間を豊かなものにできるでしょう。

母乳育児は赤ちゃんにとっても、お母さんにとっても特別な時間です。陥没乳頭があっても、諦めることなく適切なサポートを受けながら、この大切な経験を楽しんでください。専門家と一緒に取り組むことで、きっと良い結果が得られるはずです。

陥没乳頭に関するその他のコラム